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個性ドリブン#3[横木淳平]- シモツカレヤンキー コラボ企画 –

by クロ
個性ドリブン#3[横木淳平 / 介護付有料老人ホーム 新]
しもつかれにインスパイアされたアパレルブランド「SHIMOTSUKARE YANKEE(シモツカレヤンキー)」。
ただ洋服を販売するブランドではなく、しもつかれを「栃木の個性」と定義し、ローカルで個性を武器に生き抜く人を応援するするというブランドコンセプトがあります。
本企画「個性ドリブン」は、シモツカレヤンキーのブランドプロデューサーであり、栃木市のブランディングデザイナー、しもつかれブランド会議(SBM)代表の青栁徹氏が、これまでコラボレーションさせていただいたブランドや人物を「個性」を切り口に紹介する企画です。
第3回目は、同ブランドの運営母体「しもつかれブランド会議」が今年2月に開催した「しもつかれウィーク2020」でコラボレーションさせていただいた「介護付有料老人ホーム 新」施設長の横木淳平さんに、介護や認知症を「個性」という切り口からお話いただきました。
横木さん独自の介護論「介護3.0」から見える、個性との向き合い方をご覧ください。
栗林荘しもつかれウィーク

シグナルを見逃さない

青:最初に、どんなことをされているのか教えてください。

横:介護付き有料老人ホーム新で施設長として、その人らしく最後まで生活することを目標に働いています。おむつを付けない、普通のお風呂に入る、その人のやりたいこと行きたい場所へ行くことを叶えたりと、今までの介護のイメージを変えようと活動しています。

青:介護のイメージを変えようと考えたのはいつ頃からですか。

横:専門学校で学ぶ中で、実習時に見たお年寄りが繋がれて寝かされていた状態を目の当たりにして、利用者も介護者も人間じゃないと違和感をずっと感じてて。その後介護の仕事をする中で、その人が元気になる方法を探すことが介護だなと辿り着きました。

介護はおむつ交換や身の周りの世話ではなく、その人と一緒に可能性や個性を伸ばしていくことが介護の本質だなと気づいて。その時に初めて介護の面白さや、やりがいも感じられた。それから、丹録会の篠崎さんと出会い、ハードの設計からソフト作りまで、一貫してやってみようということで完成したのが「新」です。

青:僕の亡くなった祖父もデイサービスにお願いしていた時期があり、母が在宅介護をしていました。いわゆる認知症状態でトイレも理解できていない状態。それを見ていて自分はお世話されるのは嫌だなと思って。自分が迷惑を掛けてしまう側になる前に死にたいと思うようになりました。

横:認知症を個性と捉えてしまうと、集団個性のような状態に発展してしまい、それに当てはまる人は病気として一括りにされてしまう。例えば5人同じ症状の人がいたら、認知症として処理されてしまい、やること全てが問題となる。そこから一人一人の個性やその人の可能性を考えるために、一度認知症という枠から外すことが重要。

それとシグナルも大切で、例えば部屋で排泄する人が居たとして、これを問題行動と捉えると「させないようにするにはどうするか」の発想になるが、「何を訴えてるのか」「この行動にはどんな意味があるのか」を考えると必ず理由に辿りつつく。行動をシグナルと捉え、そこから紐解くと、元々住んでいた自宅のレイアウトだとその場所にトイレがあり、施設に移り生活環境が変わったことで、認知症のためトイレがしたくても見つからない状態になり、昔トイレがあった場所で排泄してしまうこともある。もしくは、寂しい感情や誰か一緒に居て欲しいという気持ちからきているかもしれない。一つ一つの行動をシグナルと捉え、何を訴えているのか掘り下げる必要がある。

青:シグナルを見逃さないようにすることが大切なんですね。しかし、現状の介護はシステム側、運営側が管理しやすいように利用者を当てはめるようなイメージですが、横木さんのアプローチは真逆ですよね。そうなると様々な作業コストが増える気がするんですが。

横:管理をすることが絶対的に悪いことではなく、安全性を高める上では必要なことも多い。その中でも個人別に考える必要があって、管理をしないことで幸せになる人もいれば、管理した方が幸せな人もいる。

青:全員一括りで考えないということですね。

横:一人一人目標が違うので。それから、職員自体が楽しんで仕事ができる環境を作ることが大切だと思います。

青:職員さんが生き生きと働けば、利用者さんへの対応も変わりますよね。

横:僕が職員にシグナルとして捉えろと指示したとしても、職員が目の前のお年寄りに愛情と興味がないと機能しません。本質的に一番大事なことは、綺麗事かもしれないけど、目の前のお年寄りに愛情と興味が持てるか。

シモツカレヤンキー企画3

興味と愛情で切り取る「介護」

青:目の前の人に愛情と興味を持てるようになるにはどうしたら良いですか?

横:意外と簡単で、相手から「貰え」ば良いんです。福祉や介護は「与える」イメージが強すぎる。ボランティア精神、無償の愛を注ぐのが介護・福祉というイメージだが、与える一方だと愛情と興味は持てない。

例え興味は持てたとしても愛情は義務的になったりする。お年寄りは自分が行動したことへのリアクションをちゃんと返してくれています。ひとりでトイレに行けなかったお年寄りが1年後に行けるようになったとか、歩けなかった人が歩けるようになったとか、外出を繰り返すうちにその人が本当に行きたい場所を教えてくれたりとか。

青:相手に対して興味関心がない限り、そのリアクションを感じることはできませんよね。

横:リアクションを感じることで、さらにやりたくなるスイッチが入る。持ちつ持たれつの関係性をどう作るかが重要。与える方与えられる方、弱者強者、介護する方される方という関係を、いかにグラデーション的に繋いでいけるか。

青:本質的には双方向コミュニケーションであるべき。そうではないから、お世話する方とされる方という関係性になってしまう。

横:重要なのはこちらのアンテナの高さ。食べ物を飲み込む喉仏の動きや、お風呂に入った時の汗がにじみ出た時の気持ちよさそうな顔だとか。決めつけでも思い込みでも、こちらがそう思い込むことが大切。

青:直接言ってもらえなくても、体の動きを自分なりにどう解釈するかなんですね。少しのリアクションでも、アンテナを高くして自分から発見し、ポジティブに解釈する。

横:例えば、お漏らししてしまったお年寄りがいたとして、それを「介護は与えること」と考える人は「なんで漏らしたの」となる。逆に「持ちつ持たれつのアンテナの高い人」は、「このタイミングでトイレに連れて行ってあげられなかった、ごめん」と心の底から悔やむ。180度違いますよね。

青:全然違いますね。

横:マイナスのリアクションをさせてしまったことを自分の落ち度として考えます。

青:スタッフさんにも教育として徹底していますか。

横:してます。すぐに全員ができるわけではないですが。介護の仕事を「個性」と考えると、全く仕事ができなくても、多くいる利用者さんの中のたった一人にとってでも、その人のナンバー1の存在になれれば、それがそのスタッフの価値になる。

青:それがスタッフさんの個性になるわけですよね。相性はありますか。

横:ありますね。

青:そうですよね。人間同士ですもんね。

横:相性を生み出すことができるのも介護の面白いところ。例えば僕が最初、孫的なキャラで接した時に合わないなと感じたら、友達キャラにしたりと相手に合わせてキャラクターを変化させます。

青:自分の中にキャラをいくつか用意しておいて、試しながらお年寄りに合わせるんですね。

シモツカレヤンキー企画4

お年寄りの世界観に入り込む

横:実は僕、認知症の方との関係づくりが上手なんですよ。僕は他の介護士よりコミュニケーションの取り方をミスったことにいち早く気付ける能力が高い。違ったと感じたらすぐに別方向から攻めます。他の方は、自分というキャラで押し通してしまう。タイミング良くその人の心情を理解してバシッとはめるよりも、ミスったことにいち早く気付く能力の方が大事。同じ人でも日によってキャラが違くて、同じキャラでいけば良いというのはダメ。認知症の世界観の中で働いてる設定や、家庭環境が違う日もある。

青:見極めるのかなり難しそうですね。

横:だからこそ、ミスったことに早く気付けるかが重要。ミスったら違う引き出しをすぐに開くんです。

青:切り替えのスピードが重要なんですね。介護に関係なくサービス業の本質ですよね。

横:上手にサービスを提供することより、自分の動きに対してのリアクションに敏感になってすぐ違う引き出しを開けられるかですね。そもそも、その人の個性を理解できないものだと思って入り込むことが重要で、「理解してやろう」では上手くいかない。

青:上手くいくことが前提で入り込むから、上手くいかないとネガティブな感情が生まれてしまうけど、最初から上手くいかないことを前提に入れば、少しでもリアクションが見れた時ポジティブに捉えられますよね。

横:ある利用者さんは、僕以外のスタッフにはペコペコするのに、僕にだけめちゃくちゃ説教するんですよ(笑)

青:笑

横:義理の息子だと思ってて、役場で昇進できないことをひたすら怒ってくるんです(笑)。サービス業と考えると、僕は怒られているからダメってことになるんだけど、その人の内面を引き出しているのは僕だけなので本質的なサービス業として成功と言える。好かれれば良いわけではない。

青:常に相手のことを見て、シグナルを察知できるようなスタンスで接しているということですね。

横:そうですね。アンテナを高くして仮説を立てていますし、その人の世界を一緒に見なくてはいけない。「空襲が来る」と言われたら同じ気持ちにならないといけない。

青:「空襲なんて来ないよ」と否定してはいけないんですね。

横:だって来るんですから。

青:なるほど。お年寄りのその時々に変化する人格・個性に合わせるんですね。

横:例えば、認知症で暴れている方がいらっしゃるとして、状況からして自分以外は全員敵なんだなと仮説を立てます。ということは、僕が一人味方になってあげれば僕の一人勝ちだなと。ビジネスチャンス到来みたいな感覚です(笑)。「家に帰りたい」と言っているお年寄りにスタッフみんなが「明日ね」と諭している中、僕が「今から帰らせてあげる」と連れ出せば味方ですよね。どうやって帰らせるかはその後考えます(笑)。

青:ヒーローですね(笑)

横:心を鷲掴みです。

青:そうなると、そのお年寄りは横木さんのファンになる。一人勝ちですね。

横:その人の世界観に入って、自分がその人の一番心地良いところにポジショニングする感覚です。

青:否定するのではなく、一緒に世界観に入り仲間になるんですね。

横:最初から静止させるような言葉を発するより、一度味方になってから話すとちゃんと話を聴いてくれます。

シモツカレヤンキー企画5

個性をどう生かし、生かされるか

青:お年寄りの個性に合わせて介護のスタイルも変えていると思います。一人一人と向き合い、個性にフォーカスすることで介護が面白くなるんじゃないかと思うんですが。

横:そもそも僕は個性が何かを生み出すことは無いと思っていて、個性は空気みたいに存在するものであって、それ自体にプラスもマイナスの要素も含まれていないなと。だから「個性を個性としてフォーカスするため」「個性が個性として輝くため」には、「生かす力」「生かされる力」の相互作用、関係性が重要なのかなと。

青:本来はどんな形でも良くて、それを誰かが評価するから個性になる。

横:個性自体に目を向けたところで、どうしようもない。日本語的にはあまり好かれてはいませんが、僕は「利用する」という言葉が好きで、「相手の個性を利用しよう」と考えてコミュニケーション取ることが大事だなと。利用するとは相手の良い部分を見ようとすることであり、相手のスペックを知ろうとする行為。そのスペックを利用したいと思ったら、ただでは利用できないからら僕のスペックを差し出す。だからこそギブ&ギブの関係になる。その人を利用することで良い部分を見ることになる。個性は「利用するか」「利用してもらう」ことが重要で、そのままだと価値はないのかなと。相手に認知されて「個性」として成立する。個性はそもそも潜在的なもの。

青:そうすると、どう切り取るかが重要ですね。

横:そうですね。どう磨いて際立たせるのか。

青:本質的には個性に良いも悪いもない。切り取り方次第で判断されてしまっているだけ。

横:その人が努力した結果、生きる個性もある。個性は相手側の人が僕の個性をこれだと認知するから存在する。個性を大事にするには、どうやって「生かし」「生かされる」を考え、努力をしなければいけない。福祉も障がいも個性は個性だけど、そこで成功している人はシンプルに努力している人。

青:ただ個性があるだけだとビジネスにはなり得ない。そこに時間を費やし努力をしなければ。

横:だからみんな努力して、自分の個性を高めて闘うわけで。それを僕らは仕事として、その人のプラスの部分に目を向け可能性を伸ばす。それが個性を見るということ。問題行動を個性として見るだけではダメで、可能性が広がる方向に導いて、その人を元気にするまでが仕事。

個性を発揮してもらう居場所を作る上で3つポイントがあります。

1つ目はその人ができることを探す、2つ目はその人が輝いていた頃のことをやる。3つ目が一番重要で「周囲に認められること」。その人がそれをやることで周りに認めらて初めて居場所になり、個性を発揮したことになる。例えば料理した時でも、誰においしいと言ってもらえるかが重要で、つくることより美味しいと言ってもらえる環境をアシストしなければいけない。料理レクレーションで終わってしまうと、個性が輝かずに終わってしまう。

青:ただ料理をつくってくれた人で終わってしまいますよね。

横:例えば寝たきりの人が毎年娘さんに年賀状を送るんですが、年賀状を送ることで一瞬だけ母と子に戻れる。お世話する側、される側ではなくなることが重要であって、年賀状を送る行為に意味はない。毎年その機会があるから「母と子に戻れる」ことに意味がある。

シモツカレヤンキー企画6

介護のスタンダードを変える挑戦の物語を

横:実は今後ニートになる予定で(笑)。

青:どうしたんですか(笑)。

横:日本の介護のスタンダードを変えていく活動を主としてやっていこうかと。そのためにフリーランスになって、介護現場や介護以外の方達とコラボレーションしたり、町づくりや、今後訪れるであろう介護離職問題に対して企業さんと一緒に取り組みたいと思っています。介護3.0をソフトとして導入していただける自治体や企業さんを大募集しています(笑)。例えば大企業でも優秀な人材が親の介護のために離職してしまうのはリスクですよね。その時に介護3.0理論を導入していただければ、離職せずに介護が可能になるかもしれない。

そして、介護3.0を日本全国や世界へと拡張するチャレンジをしますので、応援していただければと考えてます。僕を応援することが、親御さんや自分自身が本質的な介護を受けられる未来をつくることになる。なので仕事ください(笑)。介護のスタンダードを塗り替えるために、応援よろしくお願いします。

青:これからの日本において、歳をとることに未来を感じられない人が多いと思いますが、介護3.0を広めることで、明るい未来になるんじゃないかと感じました。働く介護士さんもやりがいが生まれ、より楽しく働けると思います。

横:一人の若者が5人のお年寄りを支える時代になる中で、その5人のお年寄りの個性を輝かせないと本当にキツイ時代になる。であれば、国としてもこの5人の個性を生かして輝かせることが必要になる。

青:そうしないと財政ももたないですよね。高齢者の個性を生かしながら共存していく。

横:活躍してもらえれば、地域資源として考えてもお年寄りにいてもらった方が良いとなる。

青:お世話するされるの関係ではなくなりますね。お互いの強みを生かした、健全な共存の形になる。その未来を作るためには、確実に介護3.0を導入すべきですよね。

横:そうなんです(笑)。なので僕を応援してください(笑)。

青:一緒に介護のスタンダードを変えていきましょう。

シモツカレヤンキー企画7

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