川村葉子
栃木県の郷土料理「しもつかれ」のお菓子に特化したブランド「渡守 -TOS- 」。そのお菓子づくりを一手に担う、しもつかれブランド会議メンバーでもあり、菓子工房こぶし代表の川村葉子さんに、渡守のブランドコンセプトと、想いを伺いました。
しもつかれアレンジブランド「渡守(トス)」は、「渡す」と「守る」で「渡守」。栃木県の郷土料理「しもつかれ」を無さないように「守り」、そして次世代に「渡す」という意味があります。
しもつかれは千年近く続いてきた伝統ある郷土食であり、季節の神事にもつながる、過去からの文化・遺産です。それが今では多様な食の流れに呑まれ、「大変だから」「おいしくないから」等の理由で、作る家庭が減っていっています。
「しもつかれ」は各家庭で楽しむ家庭料理のため、家ごとに味や作り方が異なります。作らなくなった家庭の味は、引き継がれることなく途切れてしまいます。早いうちに、気づいてほしい。私も1月2月に「しもつかれの作り方を教えてほしい」と、比較的若い主婦の方から言われることが増えました。おばあちゃんがなくなったり、作らなくなったずいぶん経ってしまったりすると、作り方や味はわからなくなってしまうのです。
「これが、しもつかれ?」
「あの「しもつかれ」を「お菓子」に? 想像がつかない」
何度も言われました。確かに、料理のリメイクや食べ方の工夫はあるかもしれませんが、お菓子にするという発想はないかもしれません。
そこは、私自身が菓子工房でお菓子を作っている人間だったので、お菓子にすることができたのです。お菓子は、嗜好品です。表現や目的は自由にできるので、最初はあまり硬く考えずに作りました。
手始めに着手したのは、塩味のケーキ「しもつかれ・ケークサレ」でした。
形はパウンドケーキ、食べるとしもつかれ味です。メンバーに試食してもらい、街中に突如出没するゲリライベント「フリーしもつかれ」にて、通行する方に試食していただきました。
「ケーキなのに、甘くない」
感想で多かったのは甘くないことへのギャップ・違和感でした。今でこそ、塩味のケーキ「ケークサレ」を知る人も少しは増えたと思いますが、その意見はあまりにも印象深く、それなら、と作ったのが「ガトーしもつかれ」でした。
バターケーキを普通に作り生地にしもつかれを練りこみ焼きました。
アレンジ菓子は、しもつかれが苦手な方にも「おいしい」「結構いける」と思ってもらうことが目的でしたが、実際にやってみると、想像よりおいしいく、おもしろい味になりました。
「これだったら、食べられる」「普通においしい」
言っていただけて本当にホッとしました。
この「ガトーしもつかれ」と、「ケークサレ」は、2019年2月に開催した、しもつかれブランド会議主催の「しもつかれ祭り」にて販売させていただきました。
おかげさまで完売。お買い上げいただいた皆様と、販売に携わってくれたメンバーのみんなには今でも感謝しています。
その次に商品として作り始めたのが、「しもつかれビスコッティ」です。これは、「コーヒーに合うしもつかれ菓子を作る」というテーマで開発しました。
普段しもつかれを食べない若年層に、しもつかれとの新しい接点を生み出すため、カフェにも似合うような、おしゃれなイメージの菓子を目指しました。
個人的にカリカリの歯ごたえが好みで、イタリアの郷土菓子のビスコッティは普段から焼いていました。水分が多いしもつかれを練りこむのは作業としては大変になるのですが、香ばしい甘さ控えめの菓子となりました。
こちらは賞味期限も長く、その後も協力店に販売の委託をお願いして、現在も約20店舗ほどで取り扱っていただいています。
しもつかれアレンジブランド「渡守」は、楽しい驚きで「しもつかれ」を再発見していただくきっかけになれたら嬉しいです。
それは「新しい驚きで、日常の食を再編集する」という、しもつかれアレンジ料理家ハコ、私自身のテーマでもあります。
それぞれの家のおいしいしもつかれがつながり、渡し守り続くよう願いを込めて、今日も私は菓子を焼いています。